
泣かぬ鼠が身を焦がす
第35章 秘事は
何も下に敷かずに腰かけた拓真さんの隣に俺も座った
すると拓真さんは俺を見ながら、お母さんのことをぽつぽつ語ってくれた
「母は、快活な人だった。女手一つで俺を育てていて大変だったはずなのに、いつも笑顔で」
「素敵な人だったんだね」
女性1人で、なんてそりゃ大変だよね
それなのに笑顔か
すごいな
「朝から晩まで働いて、俺に全くの不自由をさせなかった」
あんなに大きな会社を経営出来るまでになったんだから、高校だってそんなに悪いところに行ったわけじゃないんだろうし
そしたら教科書代とか
バカにならないよね
「それなのに休みの日には俺と一緒に出かけたり、家族との時間もしっかり取ってくれる人だった」
俺は静かに相槌を打ちながら拓真さんの話を聞く
「あの日は、俺がしていたアルバイト代で少しでも母に恩返しをしようと連れ出していたんだ。外で食事を取って、家に帰る途中だった」
拓真さんが目を閉じる
「遠くから叫び声と甲高いブレーキ音が聞こえてきて、気がついたら俺は歩道の端に飛ばされていた」
思い出してるのか、拓真さんが辛そうに顔を歪めた
「隣にいた母がいないことに気がついて、すぐに探した」
