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泣かぬ鼠が身を焦がす

第35章 秘事は


座ってからも繋いでいた手が、少しだけ震えている


「母は俺から離れたところで血まみれになって倒れていた……」


拓真さんが繋いでる手と反対の手で目元を覆った


「その光景が、今も頭に焼き付いて離れない」
「……」


俺は今までの人生で人が死ぬところなんてみたことがなくて、ましてや事故現場になんて遭遇したことはない

だから想像するしか出来ないけど

自分の母親が、なんて


言葉にならないほどキツイ
それだけはわかる


「母が死んで暫くは、毎年どころか毎月ここに来ていた。贖罪のために」


しょくざい……

罪を償う、ってこと?


「俺のせいじゃない。そんなことは誰もが言ったし、自分でもわかっていた。でも……」


言葉を切って少し下を向いた拓真さん

俺は拓真さんとの距離を少しだけ縮めて座り直した


「自分の心が許せなかった……?」


拓真さんが静かに頷く


「理屈じゃない。俺にだけ見える母親が、俺を責めているように感じたんだ」


なんだか、昔の自分を思い出した

ずっと同じ夢を見て
義理の父親の陰に苦しんで


けど拓真さんは、俺なんかよりもっと大きな苦しみを背負ってたんだ

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