けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
「いらっしゃいませ、こんにちは、何名様でしょうか?」
イタリアンのお店でいつものように忙しく働く。
コスプレのようなメイドの制服、ウィッグをつけたら完璧な女の子になれる。
スーツを着た男性2人組を席に案内する為に、彼らの前を歩く。
『可愛い子、前からいたっけ?モロ好み〜』
『見ろよあのウエスト細いな〜折れそう、足も綺麗〜』
背後で彼らのひそひそ話が聞こえる。
ふふん、ウィッグをつけたらこんなもんよ。
落ち込んだ気分が少し変わる。
ランチタイムだから忙しい。
近くの大学生や高校生、会社員が一挙に押し寄せて来る。
小走りで店内を動き回って、やっと落ち着いて来たかなという時に、
「すいません、注文いいですか?」
声をかけられた。
聞き覚えのある声にギクリとする。
「はい、少々お待ち下さい」
振り返ってその席に近付いて、お互いが固まる。
真人兄ちゃんだった。
今までここでバイトしてる事は知っているけど、来店して来た事は一度もない。
「お前……!ちい……!アルバイトってここの厨房じゃなかったのか?それにその格好……っ」
何故だか顔を赤らめる真人兄ちゃん。
目を細めてじっと見つめられるけど。
そう言えば最初はここの厨房で働いてて、ウェイトレスの人数が足らないから、急遽店長が何故だか持って来たウィッグをくれて、皆に面白がられて、メイクされたのがきっかけだった。
今では重要な戦力だと当たり前のようにウィッグと、グロスだけ付けてホールに出てるけど。
面倒だから真人兄ちゃんにはいちいち言わなかったし、来るとは思わなかった。
「ご注文……お決まりでしょうか?」
ひきつった笑顔で事務的に接する。
「そんな格好でバイトしてるって、聞いてないぞ俺は……!」
はあっ!?
何、その保護者ヅラ?
腹が立って笑顔がぴくぴくひきつる。
「それにそのスカート丈っ、お前だけやたらと短くないかっ?」
やかましい。
学校の先生かお前はっ?
小柄だからSサイズだからでしょ?
うるさいから帰ってよ?