けだもの系王子
第9章 椿、真面目ぼっちゃん系?
言いたいのに言えない。
口を開いたら泣きそうになるから……。
家を出てまだ1週間ほどしかたってないけど、子供の時から本当の兄妹みたいに育ったから、懐かしく感じる。
相変わらず綺麗な顔立ち、少し痩せたのかな?
だけどこの人にされた事を、なかった事には出来ない。
兄妹だったけど、今のあたし達は、こんなにも……他人だ。
「御注文がお決まりになりましたら、また、お呼び下さい」
事務的に固い声でやっと言えて、背中を向ける。
早くこの場を離れたいのに、腕を掴まれる。
相変わらずの強引な力に悲しくなる。
「……やっ!」
「ちい……っ、注文するから、ここに居てくれ、俺から逃げないでくれ……っ、俺はお前に会いたかったんだから……っ」
「あたしは会いたくなんか……なかった」
「ちい……!」
涙が出る。
真人兄ちゃんの強引な力が、あたしを離してくれない。
嫌なのに。
だから。
嫌いなのに。
涙でぼやける視界に、広い背中が、遮るように現れた。
「真人……、俺もストーカーみたいにちいちゃんの回りを張ってて、正解だったな、腕を離せよ?」
椿さんだった。
朝気まずい気分のまま、別れて、大学に行くって言って、いたのに。
確かにここから、椿さんの通う大学は近いけど、こんなにもタイミング良く……。
まるで王子様みたいに……。
来てくれるなんて……。
来てくれた。
他でもない、椿さんが、来てくれた……!
その事が嬉しくて、信じられない思いで首を振り、涙が零れた。
「椿……!、お前こそ教授と実験するんじゃなかったのかよ……!」
「へえ?何でお前がそんな事知ってるんだ?」
「……!」
「悪いね俺も余裕がないんで、ちいちゃんの回りには、常に家のもんに張らせて貰っていたからね、と言っても今日は本当にたまたま、ちいちゃんの事が気になって、教授には説明してここに来たんだけど、来て良かった……。
真人、ちいちゃんを泣かせる事しか出来ないのなら、俺にも考えがあるけど、どうする?お前とはなるべく友達でいたいし、将来お兄さんになるかもしれないし……ね?」