けだもの系王子
第10章 涼、束縛系?
「お疲れ様でした〜」
私服に着替えてお店を出ようとする。
「送るよ、唯夏、待って!」
慌てて店長があたしの後を追いかけて来る。
「忙しいし、いいですよ」
「嫌、だめだ」
強く言われてビクリとする。
まだ、お店の中で、他のウェイトレスもウェイターも見てるのに。
ウェイターの慶紀くんが冷やかすように「ひゅう」と言った。
「近いから、すぐに戻るから、オーナーお願いします」
皆の前で頭を下げて、店長と一緒に店を出た。
「そこまでしなくても大丈夫なのに」
「俺がそうしたいんだ、お前の事が心配なんだよ」
一緒に歩きながら、頭の上にポンと手を置かれる。
「……もう、大丈夫ですから」
「……嘘をつくなよ?」
「……何がですか?」
「体調は確かに良くなったのかもしれないが、あれからお前は笑わなくなったって事くらい、俺には分かるんだ」
あれから……。
そんな事はない。
ちゃんとバイトにも出て、皆とも上手く笑えてる筈だ。
黙って歩くあたしの顔をじっと見つめられる。
目が合って、ふっと笑う。
優しい瞳。
仕事の時とは明らかに違う表情にドキドキした。
「唯夏」
あたしの家のアパートが見えてきた。
そっと名前を呼ばれて、立ち止まる。
「お前が涼の事を忘れるまで、俺はずっと待つよ、だからお前も俺の事を考えといてくれ」
店長の手が伸びて、また、頭に手を置かれると思って、軽く目を閉じて、
ちゅっ。
頬に暖かい唇の感触がして、驚いて目を開ける。
身を屈んでいた、長身な体がすっと離れる。
店長の瞳が甘く光った。
この人の腕の中に飛び込んでしまえば、恐い事なんて何もないのに。
涼の事なんか忘れてしまえばいい。
涼だって、たまたま、街の中であたしを見つけて、そのまま連れて帰っただけで。
たった、一晩だけの関係。
おもちゃ……にされたのかな?
店長と別れて暫く立ち尽くしていた。