けだもの系王子
第3章 隼人、無口系?
「ただいまあっ」
テンション高めに家の中に向かって叫ぶ。
しん、静まり帰ったリビング。
それもそうだ。
今は夜中の2時くらい。
高校3年の弟と今は二人だけで暮らしている。
普通のマンション。
母子家庭で、飲み屋のママであるお母さんは、只今入院中。
飲み過ぎ、働き過ぎで、膵臓が良くないらしい。
昼間は美容師であるあたしが、週末だけアルバイトに出ている。
「けいちゃん、お水飲みたいっ」
弟の名前を叫んで、ソファーに寝ころぶ。
冷たくって、気持ちいい感触……。
あ、天井が回ってる。
酔ったかな、これは……。
幸せな気分で目を閉じた。
『仕事ばっかりで、男みたいだな、二人きりの時ぐらい、仕事の話はやめろよ……』
『ごめん、だって、まだ、見習いだし、勉強中だから……』
『だから俺とのデートもろくに出来ないのか?美容師って大変だな?もっとチャラチャラした職業だと思ってたよ』
そう言ってたのは、別れた彼氏だ。
思い出して、ムッとする。
別に、男なんていらない。
あたしには、夢がある。
いや、目標と言うべきか。
立派な美容師になって、自分の店を出したい。
その為にお金もいるし。
恋愛なんかする暇なんてないんだから。
それが分からない男なんて、いらないから。
ばか。
「りょうくん……」
知らない間に口に出していた。
夢?
寝言?
「りょうくんて誰ですか?」
耳元で艶やかな声。
びっくりして、体を起こす。
「あっ!」
ぱしゃっ。
あたしの体が水の入ったコップにぶつかる。
胸元に水がかかってしまう。
冷たい……。
「すいません、大丈夫ですか、まどかさん?」
心配そうに、あたしの肩を抱く。
この子は。
けいちゃんの友達。