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暗闇の中の一等星

第4章 暗闇の中の一等星―真治の過去―

 四年前、真治には同い年の彼女……美咲(ミサキ)がいた。その時の真治は、高校を卒業して、デザインの仕事を始めたばかりだった。美咲は、短大の文学部に行きながら母親が経営する喫茶店の手伝いをしている。

 美咲は笑顔で接客をし、友達も多い。映画やドラマや本に感動しては、涙を流し、間違ったことにはきちんと怒るようなコロコロ表情が変わって喜怒哀楽がある子だ。そんな笑顔と涙を真治が奪ってしまう。

 美咲と真治は毎日電話をすることを日課にしていた。

 けれど、上司に与えられた仕事だけをこなす。好きなデザインをさせてもらえない。真治はストレスが溜まり、イライラしていた。

「今日も仕事で上司があれやこれや言うんだよ。でもそれがなってなくてさー。俺ならもっといいデザインできんのにさ」

「うんうん」

「ほんっと、俺、なんのために入社したんだか。まじ嫌になるわ」

「でも入社したのには意味があるよ。真治はまだまだ途中でしょ。いつか任せてもらえるようになるよ。真治のデザインしたドレス、着せてくれるんでしょ?」

「ざっけんな! そんな簡単にいかないから困ってんだ。だいたいいつも美咲は綺麗事ばっかで……」

 気づいたら真治は怒っていた。美咲は好意で言葉にし、励まそうとしただけなのに。電話越しで涙を零す。だが、頭に血が上ってしまった真治は謝ることもせず、電話を切ってしまう。

 そんなことが続き、美咲はいつの間にか強がって無理をするようになる。でもそんな時、自分のことに精一杯だった真治は知らない。いや、知ろうともしなかった。

「でさー今日もなー」

「うん」

「ほんとに俺のデザインの何がそんなにいけないわけだよって」

「真治のデザインはいいと思うよ」

 いつしか美咲は自分の意見を言わなくなる。

「ほんとにそんなこと思ってんのかよ! 俺のこと面倒くさくなった? それとも嫌いになったのかよ?」

 美咲が自分の意見を言わなくなったことで、真治は避けていると嫌いになったと勝手な妄想をして責めた。美咲は何も言わない。

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