今宵もネムリヒメに素敵な夢を...♡
第6章 風邪なんてオレにうつしてさっさと治しちまえよ♡ver.渚
─数時間後…
「悪い、千隼。行ってくるわ」
「うん、気を付けて行ってらっしゃい」
アタシは玄関先でスーツに着替えた彼にそう声をかけていた。
その日、本来は休みをとっていた渚くん。とはいえ、日本有数の巨大企業グループを背負って立つ彼がこんな風に急遽仕事に出かけていくことは日常茶飯事、よくあることである。
「埋め合わせは今度な。それよりもお前、アタマ平気か?」
「もう、それはさっきも聞いたからいいよ。それよりも、そのいい方なんかヤダ」
「…そ?」
流れてしまったアタシと出掛ける予定に詫びを入れつつ、ニヤリと心配だか意地悪なのか危うい発言をするドSオトコ。
しかし、そっと頭に触れ、髪を掬うその手はものすごく優しくて温かい。
「風邪なら…」
「ううん、もう頭痛も治まったから平気だよ。それに風邪じゃなくて、きっと気温差と天候のせいだと思うから」
「あぁ、そう言えばお前デリケートなんだっけ?」
「もうっ」
ふと微笑みながら掬い取った髪に唇を寄せた彼にぷぅっと頬を膨らませつつ、今日も完璧に着こなした洒落たイタリア製のスーツの胸元に飾られたラペルピンをそっと直す。
女心と秋の空とはよく言ったものだ。実際のところ、ここのところの激しい寒暖の差と続く悪天候は少なからず身体に様々な影響を及ぼしているに違いない。
…アタシ、デリケートだし。