今日も明日も
第41章 再録・短編
目の前にいるのに
俺を見て微笑んでるのに
何故か俺はその場から動けなくて
柔らかい頬に触れる事も
…そのしなやかな体を抱き締める事も出来ない
何で?
どうして動けないの?
"アイバサン"
声は聞こえない
唇だけで俺を呼ぶ
"コッチキテ…?"
俺だって傍に行きたい
だけど何かに囚われたかのように動けない
"ハヤク、キテヨ"
分かってるよ!
だけど動けないんだよ…っ
腕を上げたくても、恐ろしく重い空気がのし掛かる
指先一つまともに動かないんだ
「にの…っ」
声が掠れている
まるで真綿にのどをじわじわと絞められてるようだ
重い空気に逆らおうともがけばもがく程
俺の体は鉛のようで
"ハヤク…"
「待って…!」
"…モウ、マテナイ"
「にの…?!」
目の前にいるはずのにのの姿がグニャリと歪んだ
暗くなる視界
「あ…っ!」
突然後ろから、思い切り引っ張られ
俺の体はあっという間にその暗闇に引きずり込まれて行った