今日も明日も
第51章 おしおきは甘い味
鞄を見ても、何も盗られた形跡はない
お尻のポケットに入れていた財布も、そのまま
当たり前だけど、服も無事
それだけで少しホッとして、まずは早いとこ家に帰ろうと
寝ていたベンチから起き上がった
何であんなとこに寝てたんだ?
昨日は別に酔ってないし、そもそも酒は飲んでない
確か早くに仕事が終わって
にのと映画見に行こ、って約束して
家に寄ってから行くねって言って一旦別れて…
「…別れて、どうしたんだっけ」
ダメだ
そこからの記憶がない
マンションまでの短い距離をいつもの倍以上に時間を掛けて、考えながらゆっくりと歩く
「どこ行ってたのよ」
ふいに、横の植え込みから声を掛けられて
驚いて体が跳ねた
声の方を振り返れば
腕を組んで呆れた顔をして立っている
「にの……」
その顔は、見てすぐに分かるくらい疲れきっていて
寝ていないと言う事も窺い知れた
「待ち合わせには来ないし、連絡は取れないし、誰に聞いても分からないって言うし
……どんだけ捜したと思ってんだよ」