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恋桜

第1章 恋桜

「そんなことないです。素敵な名前だと思いますよ」


 櫻は微笑ましく俺を見る。


 ふわりと櫻のピンクの髪がなびいた。


「髪……綺麗ですよね」


 俺は思ったことをポツリと言う。


「ありがとうございます。黒咲さんの黒髪も綺麗ですよ」


 櫻はニコッと笑った。よく笑う人だ。


「名前……仁でいい。櫻のが年上そうだし」

「黒さ……仁は何歳なの?」

「俺か? 一八歳だ。櫻は?」

「私は内緒よ。女の人に歳を聞いちゃダメよ」


 櫻は指を口元に当ててシーのポーズをした。


 ドクッと心臓が跳ねる。


何だ? この感じ……。恋? この俺が初めて出会った人に? この感情が何なのか、この時はまだわからなかった。そして櫻のこともわからなかった。


楽しすぎてつい話すぎた。空は薄暗い。


「あっ……俺、そろそろ帰らなきゃ。櫻は?」


「私はもう少しここにいるわ」


「そうか。帰り気を付けろよ」


「はい」


 そう言って俺は家に帰る。
 帰り際、櫻が一瞬悲しそうな顔をした気がした。気のせいだろうか? 気になった俺はあの桜の木の下へ行く。しかし、櫻は居なかった。やっぱり思い違いか。そう思って俺はまた足早に家に帰った。

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