トクベツ、な想い
第12章 12
「…潤にも…この話したこと、あります?」
「あるわね…潤ちゃんから聞いた?」
「…いえ…」
あぁ…なるほど…潤が急いだ訳が分かった
きっとこの話を聞いて、その瞬間を味わいたかったんだ
体の意味でのひとつと、一緒に感じる心のひとつ
…その先に待った何にも変えがたい至福の時間を
潤となら…そう初めは思っていたのに…いつしか恐怖に支配されてた
「…だからってしろって言ってるわけじゃないわ
繋がんなくたって傍にずっと居られれば…それだって十分幸せなことよ
2人の問題だからね、さっきのは全部アタシの独り言だと思って」
いや…なんか…
御越さんってカウンセラーでもあるの?
「…難しい問題だから考えるのも大切だけど
…一旦考えるのを止めて目を閉じて、何もかも全部消してみるのもいいわよ」
そう言われて静かに目を閉じてみた
色んな言葉が溢れる頭の中の暗い景色を、一面真っ白にしてみて…
あれ…前にも似たことをしたような…
白い空間から浮かび上がる影
俺の前で怒ったり切ながったりして…最後には満面の笑みを浮かべる
それに俺の心はぽっと温められて…体が心ごと優しく包まれる
胸がきゅーっとした
何も無くすとこんなにもシンプルに…気持ちが溢れる
俺の心がだいぶスッキリして変わった気がする
「潤ちゃんいつまでそこにいるの?」
目を開き、後ろを振り向くと
丸テーブルにあるイスに座ってこっちを見る潤がいた
「…戻ってたんだ」
「なんか…邪魔かなって思って…」
遠慮気味に近付いて俺の横に腰掛ける
「潤ちゃん、ちょっと」
ちょいちょいと招かれて頭だけ御越さんに突き出す仕草をする潤
体ごとよ、と立たされ耳元でこそこそ話し
着ていたジャケットに手を突っ込こまれていた
話は終わったようで御越さんは離れたけど
潤は顔を真っ赤にして動かなかった
「ふふ…翔ちゃん、潤ちゃんをよろしくね
…また顔見せにきてね」
「はい」
固まっていた潤が財布からお金を出すと、御越さんに渡して俺の手を引く
それに驚きながら立ち上がって手早く2人に頭を下げた
マンションに着くまで潤は何も話さず、後ろを振り返ることもなく
でも握った手は絶対に離さなかった