トクベツ、な想い
第9章 9
声がする
心地の良い、優しい…低い声が
「…ーい、せんぱーい、先輩」
「ん…」
「おーい、せんぱーい、櫻井さーん」
「……な、に…」
「気分、どうですか?」
肩を優しく叩かれて呼ばれていた
ゆっくり瞼を開けると心配そうな潤の顔が俺の前にあった
前髪…いつの間に短くしたんだ…
顔が近いことで先程は気にならなかったことが目に入り、問い掛けられたことに意識がいかなくてぼーっと見つめた
「…おーい」
何気なく潤の前髪に片手を伸ばしサラサラといじる
「っど、どうし…なんか変ですか?」
明らかに動揺して俺のその手を握った
変…変じゃない
でも鼓動が高鳴ってて…俺が変…
掴まれた手が…触れられてるところから熱くなって
潤が動かすその唇に釘付けになった
「…翔先輩?
気持ち悪いですか?吐く?」
「気持ち、悪…くない…」
あのキスを思い出す
気持ち悪いでしょと言われたあの場面
胸が苦しくなった
「…先輩?」
「……ス…」
「何…?」
俺の言葉を聞き取ろうと潤が益々顔を近付ける
思わず自分の頭をソファから少し浮かせ
潤の唇に自分の唇を重ねた
「っ!…しょっ…え…」
驚いた顔をして俺から顔が離れていく
あぁ…もっと…したかったのに…
「…な、何して……どうしたん…ですか」
唇を抑えながら真っ赤な顔をして目を泳がせている
そんな潤が異常に可愛く見えた
男が可愛く見える?
ホントに変だ…これは酒のせいか…?
「か、帰りましょ…肩…貸しますから」
「んー…」
動揺しつつも俺の腕をとって自分の首に回し
もう片方の手を腰に回してゆっくりソファから立たされた
足元がフラつく
真っ直ぐ歩いているはずなのに目の前が歪んで…
「…玄関、あっちなんですけど」
「分かっ…てるよ…」
「本当かよ…」
苦戦しながらももう少しで玄関、と気を抜いた
重心が潤に傾いてしまい
全体重を掛けて壁にぶつけてしまった
潤は咄嗟に背中で受けて壁への衝撃を吸収していたが
肺が押されたことにより少し咳き込んでいた
単純に申し訳なくて謝ろうと
潤の首に回っていた自分の腕を抜いて正面に回る