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桜 舞う

第2章 おまけ

「仕事が片付きましたので、酒々井さんと交代してきます」
サラリと返された言葉に息を呑みそうになった。
感情を消して平静を装うのは慣れている。
画面から目線だけ移すと平坂の目が泳いだ。
「そうか。助かる」
そう答えつつも、一人で酒々井の元に行かせる気にはなれなくて。
「よし、行くか」
頭を下げた平坂に声を掛けた。
勢いよく顔を上げ、口元をキツク引き上げる。彼が戸惑っているのは明らかで。益々一人で行かせられない。
無言で横を通り抜けると慌てて後ろを付いてくる。
「平坂、おーきに」
無責任な米田の声がする。構わず廊下に進むと笑い声がして扉が閉まった。

確定、だな……
平坂は酒々井に好意を抱いている。

いつもなら部下の恋愛に口を挟むことはしない。が、相手が酒々井となると別だ。
譲れない。

どうやって、阻もうか……

遅れてエレベーターホールに着いた平坂が伺うような目で俺を見ている。
恐らくさっきの米田の笑いを気にしているのだろう。一歩後ろに並び、身体は正面を向いたまま、ちらちらと見上げられて鬱陶しい。
こういうのは無視するに限る。
敢えて一言も発さず、会社を後にした。

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