
神様の願い事
第9章 ねこのきもち
未だ猫になりきる智くんは、俺に鼻をくっつける。
実はこれも相葉くんに教えてもらった。
“猫の挨拶だよ”と。
仲のいい猫同士、互いの鼻をくっつけて挨拶をするんだと言っていた。
智「ふふっ...」
クスッと笑うと、唇を擦るように俺の頬を滑り、耳の後ろに鼻を埋めて安心する。
ふぅっと柔らかい息を吐いて、目を閉じて。
翔「だけど俺は、やっぱり智くんがいいな」
俺の首に掛けてある手を掴んで、智くんを見た。
智「え?」
翔「猫の貴方も確かに可愛いけど、やっぱりそのままの智くんがいい…」
その掴んだ手を俺の唇に当てて、俺は話した。
智「あ...れ...? 俺...」
俺の唇に当てられた自分の手を見て、智くんは今更目をまるくして。
翔「よかった、元に戻ってくれて...」
智「え」
人間に戻った事に漸く気付いたんだろう。
なのに喜ぶどころか固まってしまった。
智「いつから...」
翔「ん?」
智「いつから、戻ってた…?」
固まった智くんは、またこの間のように少し青ざめて。
翔「朝、起きた時からだけど...」
智「うそ」
この間は“呑み過ぎた”と言ったけど、やっぱりその顔には見覚えがある。
それが俺の勘違いで無いとしたら。
翔「戻ったんだよ? 嬉しくないの?」
智「もしかして、俺の言葉聞こえてた...?」
本音を漏らしたんだ。
その本音を俺に聞かれてしまって、“しまった”そんな表情だったんだ。
翔「俺が飼ってくれるなら戻らなくていいかな、ってやつ?」
質問に答えると、智くんの表情は引き攣り始めた。
翔「一緒にいられるなら、このままでいいかなって?」
智「そ、それは」
固まった唇を開き、震えの混ざった声を出すんだ。
智「もし戻らなかったら、一人じゃ生きていけないだろうし」
翔「うん」
智「だからって、知らない人に飼われるのもちょっとヤだし」
翔「ん」
智「でも、翔くんなら安心だから...」
焦っているのか瞬きの回数がやけに多い。
智「飼い主が翔くんなら、このままでも悪くないかなって、一瞬思っただけだよ…」
一瞬と言う言葉で誤魔化そうとする。
俺が聞いた言葉は、紛れも無い本音だと思えるのに。
だから今日は、“そっか”なんて相槌、打ってやらないんだ。
