おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第19章 山岡一徹と言う男(その2)。
いつもの時間に出社をして、モリリンが来るのを待つ。手取り足取りメイクの仕方を教え、手順は覚えたものの、慣れないせいか濃くなったり、どこか物足りなかったりと、出来栄えが安定しない。だから、就業前に指導しながら、彼女のメイクを直してやるのが、ここ最近の俺の日課だ。
いつもなら、就業時間の三十分前には出社して来ると言うのに。十分前になっても、モリリンは姿を現さない。何かあったのだろうかと、スマホを見てみるが、彼女からの連絡は入っていなかった。車輌の故障や、人身事故にでも遭っているのだろうか。それなら、遅れると連絡が入りそうなものだけれど。
そんな事を考えていると坂内部長が出社してきて、モリリンと王子から遅れると連絡を受けた事を高槻室長に伝えた。初めて知ったが、二人は同じ沿線なのだそうだ。それじゃあ、電車の都合なのかな。なんて、ちょっと安心する俺。何で安心? モリリンと王子の間に特別な事なんて、あるわけないのに。
モリリンは王子が苦手な筈だ。「完璧過ぎて気後れしてしまう」と彼女は言っていた。だから、二人の間に何かがあるなんて事は、きっとない。……なんて、何でそんなに気にしているんだ? 俺は。