おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第19章 山岡一徹と言う男(その2)。
それは今となっては言えない事だ。墓場の中にまで持っていかなければならない秘密。真実を知ったところで、誰も幸せになんかなれないから。特に妹には罪はない。兄妹の間には、裏切りなどもない。切れる事のない絆。血の繋がり。俺は妹に依存しているのかも知れない。
それが、モリリンと出会って、彼女と仕事をする様になってから少しだけ薄れた気がする。知らない事が多いモリリンに色々と教えるのは、楽しくて。人とコミュニケーションを取るのが苦手な彼女が、少しずつ俺に心を開いてくれているのを感じると、嬉しくなって……。
AD部に来た初日はもっさりとした女の子が、俺のメイクでどんどん綺麗になっていくのを見るのが楽しい。自分に自信を持てない彼女が、俺を頼ってくれるのが嬉しい。モリリンは俺の心に色々と喜びを与えてくれる。それが心地好い。部の中で彼女が一番頼りにしているのは俺だと自負していた。けれど、男と女の仲になって裏切られるが怖くて。「妹みたいなもの」だと思っていれば、裏切られたなんて思わないだろうと思っていた。そう思っていれば、彼女の幸せを心から喜んでやれるものだと思っていた。けれど、二人の交際宣言に心から喜べない自分がいる。
この感情は何だ? 王子と付き合う事を一言も相談されなかった事に対してもやもやしているのだろうか。頼りにされているとは言え、相談をする程信頼をしてくれているワケではないのだと。それでもやもやしているのか? 自分の感情がよく分からない。けれど、モリリンが幸せなのだとしたら、それは先輩として喜んでやらなければならない。
俺は二人が交際宣言をしたこの日、自分の気持ちに折り合いがつかず、失敗ばかりしてしまうのだった。