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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第1章 ぷろろーぐ。


 長い社長の訓示が終わり、ほっと息を吐く音があちこちから聞こえる。アタシも例に漏れず、小さな溜息を一つ溢した。

 四月一日。

 都内にある、玩具メーカーの会議室で入社式が行われている。今は新入社員の配属先を人事部の部長が読み上げている最中だ。

 読み上げられた者は、順次席を立ち、自分の配属先の札を掲げた先輩の許へと集まっている。私は、自分の名前が読み上げられるのを今か今かと待ち受けていた。

「森脇 珠子(モリワキ タマコ)。AD部」

 アタシの名前が読み上げられ、所属部署が発表されたので立ち上がると、一瞬、周りがザワついた。

(え? 何?)

 そう思って周りを見回すと、クスクスと笑う声や、憐れみの視線を浴びせられる。それは、アタシの容姿に対してなのか、所属部署に対してなのか……。

 恐らくは前者なんだろうな。アタシの風貌って冴えないもんね。

 強い癖のある黒髪を何とか一つにまとめただけの髪型。「これから大きくなるかも」と期待を込めて母が買ってくれた、胸周りにやたらと余裕のあるスーツとブラウス。お洒落でも何でもない、黒縁の眼鏡は、レンズが牛乳瓶の底の様な分厚さだ。

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