おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第26章 痴漢、再び……。
「あれ? この傷はどうしたの?」
足元に跪いていた平川さんが、アタシの膝から脛に掛けて広がる擦り傷を見つけると、驚いた顔をしてそう言った。アタシは転んだだけだと伝えると、「きっと僕のせいだね」と言って、悲しそうに膝の傷に触れた。そして「早く治る様におまじない」と言いながら、軽く膝に口付けを落とす。それは色を含んではおらず、平川さんが本当にそう願ってくれているのだと感じて心が温かくなった。本当は顔を合わせたくなかった筈なのに。平川さんに対する怒りは薄れていた。それよりも、アタシを好きって言う先程の告白は本当なのだろうか。
「とりあえず僕は皆の前でたまちゃんに振られちゃったから……。偽りの恋人ごっこでヤマの気を引く作戦は終わっちゃったね。ごめんね?」
平川さんはバツの悪そうな笑顔でそう言うと、立ち上がった。そして、アタシの手を取って立ち上がらせると、「でも、今度は本当の恋人を目指すから」と言葉を続ける。アタシが「さっきはアタシに恋人が出来るまでとか言ってませんでした?」と尋ねると、「その恋人になる男に僕が含まれていないとは言ってないよ?」と言って笑う平川さん。
「自分から振り向かせてみせようなんて思ったの、たまちゃんが初めてだよ。僕、ストーカー気質みたいだから気をつけてね?」
確かに、始発から待っていたなんて、ストーカー気質だよね。でも、平川さんにそこまで想われたら、悪い気なんてしないと思う。アタシはちょっと引いてしまったけど。でも、何の取り柄もないアタシに価値があると言ってくれた。その言葉は嬉しかった。どんな価値なのかは分からないけれど、平川さんと一緒にいたら分かったりするんだろうか。
先を歩く平川さんの背中を追い掛けながら、アタシはふとそんな事を思ったのだった。