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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第26章 痴漢、再び……。


「でも、何故ですか? アタシは平川さんに恥を掻かせたのに……」

「あんなの恥の内には入らないよ。僕の方こそ、たまちゃんを傷付けてしまって……。合わせる顔がないクセに……」

 そう言うと、平川さんは地面を見つめながら口を噤んだ。そして顔を上げると、アタシの方に向き直り、真っ直ぐな瞳でアタシを見つめて口を開いた。

「君の気持ちがヤマに向いているのは、分かってる。でも、僕は君が好きだ。昨日、あんな事をしてしまったのは……、ああすれば、社内中の噂になる。僕と君の関係が認められてしまえば、後でヤマが君を好きになったとしても、諦めてくれるんじゃないかって……。そう言う狡い考えがあったんだ。どっちにしろ、僕は君に嫌われてしまったけどね」

 平川さんはそう言うと、寂しそうに微笑んだ。いつもキラキラに眩しい笑顔の平川さんらしくない、元気のない微笑。その笑顔に胸が締め付けられた。それと同時に、突然の告白に胸がドキドキし始めた。もう、何と言ったらいいのか分からない。

「たまちゃんには嫌われてしまったけれど……。でも、せめて君を守りたいなって。僕は、"皆の王子(プリンス)"じゃなくて、"君だけの騎士(ナイト)"になりたかったんだ……」

 そう言うと平川さんはベンチから立ち上がり、伸びをした。そして振り返ると、元のキラキラな笑顔でアタシの足元に跪き手を取ってこう言った。「たまちゃんに送り迎えをしてくれる恋人が出来るまで、僕に守らせてくれないか?」と。アタシには、そんな事をしてもらう価値はないからと答えると、自分にとっては価値があるからと譲らない平川さん。正直言って、自分にそんな価値があるとは思えないけれど、それで平川さんの気が済むのであれば、と言う事で了承した。

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