無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　入社してから、かれこれ一カ月弱。大型連休が始まる前日のＡＤ部では、高槻さんと坂内部長が会議でいない事をいい事に、雑談に花を咲かせていた。下出は、学生時代から付き合っていた彼女と別れ、合コンで知り合った子と旅行に行くらしく、ウキウキしながら川上さんに話している。川上さんは、ニコニコしながら聞いてはいるが、正直なところウンザリしているらしく、その笑顔が時折引き攣っている。

　（ゴールデンウィークかぁ……）

　子供の頃は、両親に連れられてあちこち旅行に行ったけれど、人ごみの苦手なアタシを気遣い、高校へ上がる頃には何処へも出かけなくなった。それからのアタシは、友達もいない事もあり、何処へ出掛けるでもなく、毎年家で過ごしている。

　「モリリンは何処か旅行に行ったりするの？」

　山岡さんと資料を作成していると、山岡さんが不意に尋ねてきた。

　「行きません。人ごみが苦手なので……」

　そうアタシが返すと、山岡さんは「そっか」と言って、アタシが作った資料の束を纏める。山岡さんはと尋ねると、「俺は妹のお守りかな？」と言って笑った。兄弟がいるのっていいなって思う。家族だったら、人見知りせずに色々と話せたりするんだろうな。