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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第43章 予兆。


 ヤマの親父さんは、二人を見送った後、ブラントンのロックをスッと俺に差し出し、「達哉は帰らなくていいのか?」と尋ねた。

 「俺、明日、有給をとってるんだよねぇ。だから、いいの、いいの」

 俺はグラスに浮かぶ、氷で出来た大玉をくるくると指先で回しながら、マスターの問いに答える。この時期、俺が有給をとるのにはワケがある。それは、かつて友達であった男の墓参りに行く為だ。

 「何でまた、こんな時期に有給を?」

 「それはさ……」

 話してしまおうか。誰かに聞いて貰いたい。そう思って、俺は口を開いた。話した所で何かが変わると言うワケではないけれど。そう思いながらも、心の中で吐き出す事で、少しでも軽くなる事を期待していたのかも知れない。別に真剣に聞いてくれなくてもいい。言葉にして吐き出す事で、楽になる事もある。俺はそんな気持ちで、ポツリ、ポツリと、心の中に長い間溜まっていた澱を少しずつ掬い上げては、吐き出す様に話した。

 過去の後悔の話を──。



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