テキストサイズ

おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第43章 予兆。


 「そうだなあ……」

 マスターはそう言ってニヤリと笑うと、身を乗り出して俺に耳を預ける様にと指先をクイクイと動かした。俺が身を乗り出して、彼の口に耳を近付けると、「毎日、小百合が学校に行ってから、ヤリまくってるぜ」と言って身を起こすと、どうだとばかりに胸を張ってみせた。

 「一徹も出て行っちまったし、小百合も寂しいだろうから、もう一人くらい子供が居てもいいんじゃないかと思って、な?」

 「ふぅん? マスターに愛されてるから、百合さんはいつまでも綺麗なんだね?」

 「だろう? まあ、アイツは未だ若いからな。三十代半ばなんて、女盛りだからな。アッチの方も凄くてなぁ……」

 そう言うとマスターは照れ臭そうに笑う。マスターの言葉に、俺は「体力もつの?」なんて、マスターを揶揄いながらグラスを傾けた。どうやら、二人の関係は良好の様だ。俺の思い過ごしだったかな。いや、そうであって欲しい。そうであれば、誰も傷付かずに済むのだから。

 フロアに居た他の客が帰り、俺一人になると、マスターは「今日は店終いだな」と呟いて、札を下げに行く。そして戻ってくると、胸元を寛げ、「それじゃあ、今日は俺ととことん飲もうぜ?」と言って、煙草を咥えながら、俺のグラスにブラントンを注ぎ足すと、自分のグラスにもそれを注いだ。

 俺はそれから朝までマスターと飲み続け、結局、アイツの墓参りには、午後を過ぎてから行く羽目になるのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ