おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第10章 山岡一徹と言う男(その1)。
「はぁー……」
アタシは「AD部」と書かれた扉を前にして溜息を零した。昨日、逃げるようにオフィスを飛び出し、そのまま電話の一本も入れずに帰ってしまった事に、罪悪感を感じていた。何の変哲もない、合板で出来た扉が、アタシには石で出来た重い扉の様に見える。
アタシは数分、その扉の前を右往左往していた。扉を開ける踏ん切りがつかないのだ。
(先ずは、謝る事だよね。それから……)
謝ったとして、許して貰えるのだろうか。「無視をされたらどうしよう」とか、「もう他の人が配属されたのではないか」等と色々な考えが頭の中をぐるぐると回る。
そうしてウロウロしていると、後ろから「おはよう」と声を掛けられた。ビクリとして振り返ると、山岡さんがすぐ後ろに立っていた。
(い、いつの間に背後をとられた!?)
考え事をしていて、気が回らなかったせいもあると思うけど、不覚でござった。山岡さんとアタシの距離の近さに、慄(おのの)きながら、後ろへ一歩後ずさると、山岡さんはお腹を抱えて笑い出した。
「あー……。やっぱ"モリリン"のリアクションって面白ぇ……」
山岡さんは、笑い過ぎて目に溜まった涙を親指で拭いながら、そう言うと、「ほら、行くよ」と言って、アタシの腕を掴んで、オフィスの扉を開けた。