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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第1章  出逢い

ごめん。それこそ初対面の人にこうまで熱く語っちゃ、退(ひ)くよね。でも、それが僕なりのカメラマンとしての拘りでもあるんだ。だって、この世には多くの人がいて、一生出逢わない人はずの人もいる。例えば、萌ちゃんと僕が今日ここで出逢って、僕が萌ちゃんの写真を撮ったのも単なる偶然じゃない。大勢の人の中から、何かの縁でその人が僕に写真を撮って貰いたいと思って、わざわざ足を運んでくれる。それって、凄いことだと思うんだ。だから、僕もその縁を大切にしたい。僕に写真を撮って欲しいと頼んだことを、その人に後悔させたくないんだ。ああ、ここに来て写真を撮って良かったと思って貰えるような写真を撮る―それこそが僕の使命だと思うから」
 彼の言葉に、萌は何も言えなかった。
―僕に写真を撮って欲しいと頼んだことを、その人に後悔させたくないんだ。
 そのひと言は、萌の心の中に深く深く沈んでいった。
 この時、萌は自分が恥ずかしいと思った。夫と二人の娘たちとの恵まれた生活を退屈だと思い、新しい何かを期待していた自分がとても浅はかだったように思えたのだ。
 自分は一体、何をしたいと考え、何を誰に期待していたのか。
 一枚の写真を撮るために、ここまで真摯に一人一人の客と向き合っているカメラマンがいる。仕事と割り切って、適当にこなせばそれで済むことなのに、彼はこの写真館を訪れるそれぞれの客を少しでも理解し、より自然な良い表情を引き出そうと日々、努力している。
 萌はといえば、これまで何をしていたのだろう。平穏な日々を単調だ、退屈だと決めつけ、自分からそこに価値を見出そうとも、何かをしようともしなかった。
 たとえ、どんな小さなことでも良い。夫や娘たちの弁当作りだって、もっと心を込めて家族の健康に気を配ることはできる。これまで萌はスーパーで買ってきた冷凍食品をレンジで温めて済ませてきた。今から思えば、我ながら何と適当なことをしていたのだろう。
 些細なことだって、心を込めて当たれば、必ず努力しただけの成果は結果になって現れる。夫や娘たちのために、萌にできることはきっと他にもまだまだあるはずだ。
「何だか凄いですね」
 萌の口から我知らず言葉が零れ落ちていた。

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