逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~
第1章 出逢い
★。。。。★
突然降り出した雨に、萌(もえ)は慌てて駆け出した。家を出る間際、傘を持っていこうかどうかと一瞬迷ったものの、結局持ってこなかったことを後悔してみても始まらない。いつも、そうだ。萌の人生は、こんなことの繰り返し。朝から曇り空がひろがっている日、傘を持って出かければ、何故か昼過ぎ辺りから薄陽が差し始め、やがて嘘のような晴れ間になる。
裏腹に、朝はからりと晴れた上天気なのに、傘を持たずに出かければ、突如として土砂降りに遭ったり―。
まあ、人生なんて、そんなものだとは諦めている。商店街の抽選籤でも最下等のポケットティッシュしか当たった試しはないし、くじ運どころか、〝ラッキー〟という言葉は自分の人生の辞書には載っていないのではないか。そう思えるほど、萌のこれまでの人生は平々凡々としていた。
しかし、不満を持つのは、それこそ罰当たりというものだろう。女子大英文科を卒業後、平凡なOLを六年間経験し、最初の見合いであっさりとまとまり、二十八歳で結婚というのは現在では、さほど遅くはない。六年もいた会社は事務機器を取り扱うメーカーだったが、事務職の萌はたいした業績も上げず活躍もしなかった代わりに、辞めさせられるようなヘマもなかった。
見合いで結婚した夫は六つ上で、お世辞にも今風のイケメンではないが、真面目がスーツを着たという典型的なサラリーマンだ。今の二十代では、こういうタイプは珍しくなりつつあるかもしれない。
普段から全く冗談の通じない夫は冗談を言おうとしても、それがいわゆる〝親父ギャグ〟になる。一応、社内ではそれなりに認められているやり手の営業マンで通っていて、営業部長の肩書きを持っている。
夫が職場の部下一同をいつもの親父ギャグで寒くさせているのではないかと、萌は時々心配している。夫といて心が躍るようなときめきを感じたことは一度もないが、かといって、一緒にいるのが嫌というわけでもない。夫の会社は業界ではそこそこ名の知れた自動車メーカーであり、無趣味で休日は家で寝ているのが趣味のような夫の唯一のこだわりといえば、やはり車だろう。
突然降り出した雨に、萌(もえ)は慌てて駆け出した。家を出る間際、傘を持っていこうかどうかと一瞬迷ったものの、結局持ってこなかったことを後悔してみても始まらない。いつも、そうだ。萌の人生は、こんなことの繰り返し。朝から曇り空がひろがっている日、傘を持って出かければ、何故か昼過ぎ辺りから薄陽が差し始め、やがて嘘のような晴れ間になる。
裏腹に、朝はからりと晴れた上天気なのに、傘を持たずに出かければ、突如として土砂降りに遭ったり―。
まあ、人生なんて、そんなものだとは諦めている。商店街の抽選籤でも最下等のポケットティッシュしか当たった試しはないし、くじ運どころか、〝ラッキー〟という言葉は自分の人生の辞書には載っていないのではないか。そう思えるほど、萌のこれまでの人生は平々凡々としていた。
しかし、不満を持つのは、それこそ罰当たりというものだろう。女子大英文科を卒業後、平凡なOLを六年間経験し、最初の見合いであっさりとまとまり、二十八歳で結婚というのは現在では、さほど遅くはない。六年もいた会社は事務機器を取り扱うメーカーだったが、事務職の萌はたいした業績も上げず活躍もしなかった代わりに、辞めさせられるようなヘマもなかった。
見合いで結婚した夫は六つ上で、お世辞にも今風のイケメンではないが、真面目がスーツを着たという典型的なサラリーマンだ。今の二十代では、こういうタイプは珍しくなりつつあるかもしれない。
普段から全く冗談の通じない夫は冗談を言おうとしても、それがいわゆる〝親父ギャグ〟になる。一応、社内ではそれなりに認められているやり手の営業マンで通っていて、営業部長の肩書きを持っている。
夫が職場の部下一同をいつもの親父ギャグで寒くさせているのではないかと、萌は時々心配している。夫といて心が躍るようなときめきを感じたことは一度もないが、かといって、一緒にいるのが嫌というわけでもない。夫の会社は業界ではそこそこ名の知れた自動車メーカーであり、無趣味で休日は家で寝ているのが趣味のような夫の唯一のこだわりといえば、やはり車だろう。