逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~
第4章 闇に響く音
沈黙は逆に、萌を雄弁にさせた。
「―もしもし、どちらさまですか?」
突如として、女の低いすすり泣きが聞こえた。オカルト番組でもあるまいに、冗談は止めて欲しいと思いつつ、声に力を込める。
「もしもし、どちらさまでしょうか?」
もし、これで相手が応えなければ、電話を切るつもりだった。
ところが、である。受話器の向こうから聞こえてきたのは、何と知らないどころか、聞き慣れた従姉のものだったのだ!
「萌(もえ)ちゃん、ごめんねー」
萌は戸惑いながらも、続けた。
「亜貴ちゃん、突然、ごめんねなんて言われても、何をどう応えたら良いのか判らないよ」
西浦亜貴は、萌の母方の従姉である。萌の母は二人姉妹で、亜貴は母の妹の娘に当たるのだ。亜貴も萌も互いに一人っ子同士だったので、彼女たちはまだ物心つくかつかない中から姉妹のように育ってきた。母親同士も仲が良く、休日になると家族ぐるみで行ったり来たりしていたものだ。
「だから、申し訳ないからさ、ごめんねって謝ってるんじゃない」
あまり呂律の回らない口調で繰り返す亜貴に、萌は優しく言った。
「別に申し訳ないなんて、思わなくて良いから」
実は、彼女が深夜に電話をかけてきたのは、これが初めてではない。以前にも、一度だけあったのだ。そのときは確か、当時付き合っていた恋人から一方的に別離を切り出されたと泣いていたのではなかったか。
何となく嫌な予感がしてならない。
「それよりも、亜貴ちゃん。今、どこにいるの? お酒を相当飲んでるんじゃない? まさか、路上で一人ぼっちなんて言わないでよ」
少しだけ冗談めかして言うと、亜貴が力なく笑った。
「まさか、幾ら私でも、そこまではしないわよ。ちゃんとマンションの自分の部屋までは帰ってるから、安心して」
マンションにいるからって、あんまり安心もできないけどとは言わずにいると、亜貴はまだくどくどと同じ科白を口にする。
「本当、ごめんね。こんな遅くにいきなりかけちゃってさ」
「もう、良いってば。で、どうしたの? 何か、あった?」
萌がさりげなく問うのに、亜貴が涙声になった。
「―もしもし、どちらさまですか?」
突如として、女の低いすすり泣きが聞こえた。オカルト番組でもあるまいに、冗談は止めて欲しいと思いつつ、声に力を込める。
「もしもし、どちらさまでしょうか?」
もし、これで相手が応えなければ、電話を切るつもりだった。
ところが、である。受話器の向こうから聞こえてきたのは、何と知らないどころか、聞き慣れた従姉のものだったのだ!
「萌(もえ)ちゃん、ごめんねー」
萌は戸惑いながらも、続けた。
「亜貴ちゃん、突然、ごめんねなんて言われても、何をどう応えたら良いのか判らないよ」
西浦亜貴は、萌の母方の従姉である。萌の母は二人姉妹で、亜貴は母の妹の娘に当たるのだ。亜貴も萌も互いに一人っ子同士だったので、彼女たちはまだ物心つくかつかない中から姉妹のように育ってきた。母親同士も仲が良く、休日になると家族ぐるみで行ったり来たりしていたものだ。
「だから、申し訳ないからさ、ごめんねって謝ってるんじゃない」
あまり呂律の回らない口調で繰り返す亜貴に、萌は優しく言った。
「別に申し訳ないなんて、思わなくて良いから」
実は、彼女が深夜に電話をかけてきたのは、これが初めてではない。以前にも、一度だけあったのだ。そのときは確か、当時付き合っていた恋人から一方的に別離を切り出されたと泣いていたのではなかったか。
何となく嫌な予感がしてならない。
「それよりも、亜貴ちゃん。今、どこにいるの? お酒を相当飲んでるんじゃない? まさか、路上で一人ぼっちなんて言わないでよ」
少しだけ冗談めかして言うと、亜貴が力なく笑った。
「まさか、幾ら私でも、そこまではしないわよ。ちゃんとマンションの自分の部屋までは帰ってるから、安心して」
マンションにいるからって、あんまり安心もできないけどとは言わずにいると、亜貴はまだくどくどと同じ科白を口にする。
「本当、ごめんね。こんな遅くにいきなりかけちゃってさ」
「もう、良いってば。で、どうしたの? 何か、あった?」
萌がさりげなく問うのに、亜貴が涙声になった。