方位磁石の指す方向。
第1章 scene 1
「翔ちゃん、俺こっち!」
「じゃあ俺はこっち!」
…雅紀も来ていた。
うん。そうだよな。
智くんは俺なんかより、
雅紀が好きなんだから…
こんなに胸が苦しいのは、
智くんと雅紀じゃない。
絶対に違う。
胸が苦しいのは、
走ってきたからなんだ…
「じゃあ俺と智はこっち。
翔ちゃんはそっちをお願い!」
「ん、わかった。」
苦しい気持ちを押し殺し、
笑顔を作った。
冷えた風が肌にぶつかる。
それも今は心地がいい。
火照った体にはぴったりだ。
少し歩くと、
見慣れた顔。
智くんと雅紀だ。
迷ったのかな。
声を掛けようとしたけど、
やっぱりやめた。
どうにかして、
いつもの公園に来ていた。
あんなところ、
見たくなかった。
二人が仲良さそうに話してて
一緒に二宮を探しているところ。
俺と話しているときとは違う、
本当の智くんの笑顔。
…あぁ、やっぱり…。
いつだってそうだ。
俺は貴方にしか
見せない一面があるのに、
貴方は俺になんか見せてくれない。
そんなの、不公平じゃないか。
二宮を探すのが馬鹿馬鹿しくなって、
この公園に駆け込んだ。
あぁ、もうめんどくせぇ…。
このまま死ねたら楽なのに。
こんなに苦しみを味わうなら
いっそ死んだ方が楽なのに。
どうしてだろう。
いつもの俺なら
切り換えられるのに。
どうしても前向きになれない。