方位磁石の指す方向。
第1章 scene 1
「ったく、
世話の焼ける野郎だな。」
「だから、ごめんって…」
「…今度から、やんなよ。
みんなに迷惑かかるから。」
「…うん。」
よしって翔さんが
俺の頭を撫でる。
頭を撫でられたのは、
すっごいひさしぶりで。
なんかもう、嬉しくて。
泣いちゃいそうで。
「…うっ、」
「…あーもう。」
俺がえっえと泣き出すと
立ち止まってくれた。
「男の子だろ。
泣くなっつーの。」
「だっ、てぇ…」
嬉しくて、嬉しくて、
涙が頬を伝う。
「ほら、帰るぞ。」
「う、んっ…」
翔さんの大きな手を握って、
また、ゆっくり歩き出した。
「…ほら、そろそろ着くよ。」
「…うん。」
翔さんの大きな手を
ぎゅっと握ってみた。
「なんだよ。」
「…なんとなく。」
ふふって二人で笑い合ってたら、
もう俺んち。
…あ、智と相葉さん。
声をかけようとした。
だけど…。
二人はキス、した。
「ねぇ、翔さん、痛いよ…」
「あっ、ごめん…」
どうしたんだろう。
翔さんは二人のキスを見て、
逆戻りした。
「ここ、どこ?」
「…俺んちだよ。」
翔さんは俺の手を引っ張って、
家の中に入る。
明かりはついていなくて、
翔さんと俺だけの空間。
「二宮、ごめん。」
「え?」
「…あんなとこ、見せて。
男と男がって気持ち悪いって
言ってたから…。」
「あ…。」
そうだ。
男と男が付き合うなんて
気持ち悪い。
だけど、智と相葉さんのは
不思議と気持ち悪くなかった。
「だい、じょぶ、です…」
「ほんと?」
「はい…」
翔さんは適当に座ってって
俺をベッドの上に座らせる。
「てか、敬語に戻ったね。」
「だめ、ですか…?」
「いや、別に。」
翔さんは部屋を出た。
部屋を見渡すと、
俺とは全く違う。
漫画なんておいてなくて、
ゲームもない。
あるのはカレンダーと参考書、
ベッドと机くらい。
…こんな空間じゃつまんない。
「…あ。翔さ、」
翔さんの声をかけたら、
ベッドに押し倒された。
「翔、さん?」
優しく笑って、
キス、した。