
方位磁石の指す方向。
第12章 scene 11
ぎゅ、と翔さんに抱き着いた。
自分の体が、震えてるのがわかる。
「…ふふ、そんな緊張する?」
上を見上げたら、
随分余裕そうな翔さんがいた。
ちょっと、対抗したくなった。
「そっ、そんなことないしっ…。
こんなの、余裕だから…」
うそ。
ほんとは、余裕なんてない。
だって、隣の部屋には智がいて、
下には親がいて。
今まで泣いてた声だって、
焦った声だって、
多分聞こえていたはず。
「そっか。
じゃあ、続き、するね?」
わざとらしく、
俺の体のラインをなぞった。
「っふ、ぅ…」
「…あれ?
二宮って、こんなに敏感だったっけ?」
ふっ、と耳に息を吹き掛けられながら
囁かれた。
それだけで、もう…。
…やだ、やだっ……。
こんなの、俺じゃないよ…。
泣きそうになるのを堪えて、
黙って俯いていた。
そしたら、
慌てたような、翔さんの声がした。
「え、ごめん。泣いてる?え、うそ。
ごめん、は?二宮?」
焦った声が聞こえて、
思わず笑ってしまった。
だって、未だかつて無いくらい
焦ってるんだもん。
「…ふふ。」
…あぁ、やっぱり。
俺が自然体でいられるのは、
この人だけなんだ。
