方位磁石の指す方向。
第12章 scene 11
ちゅ、と音を立てて唇が離れた。
ほんとはキスがしたいわけじゃない。
俺がして欲しいのは、
キスが終わったあとに
翔さんがしてくれるハグ。
痛いよってくらい、
強く抱き締めてくれるんだ。
俺のこと、好きなんだなって実感できる
その瞬間が一番好き。
「…ねえ、翔…ぎゅーってして…?」
「ばっ、おま、それ反則…」
「…ふふ、好きだよ。」
あーもう、可愛いな。なんて
頬を赤く染めてから
俺を優しく抱き締めた。
…そうじゃないんだけど。
「…もっと、」
「ん?」
「もっと強くぎゅってして…?」
上目遣いで言ってみれば、
さっきよりも強く強く抱き締められた。
…うん、これ。
これが欲しかったの。
翔さんの瞳には、俺しか映ってない。
俺だけを真っ直ぐ見てくれている。
でも、恥ずかしくなっちゃって
俺から目を逸らすんだ。
そうすると、いつも、
「何目ぇ逸らしてんだよ。」
って無理矢理翔さんの方へ向かされる。
それからキスされて、
また痛いくらいに抱き締められる。
「…ふふ、」
「んぁ?何笑ってんだよ。」
「んーん、翔が好きだなって思っただけだよ。」
「あっそ。」
素っ気ない返事だけど、
耳まで赤くなってるのバレてるよ。