方位磁石の指す方向。
第15章 scene 14
二宮side
近いようで、だんだん遠くなる距離。
俺も、将来のことを
考えなくてはいけない時期になってきた。
「…翔さん、遠くに行っちゃう?」
「…いや?家から通うつもり。」
俺は「ふぅん…」と
呟いてから目線を逸らしてしまった。
「…翔さんの将来のことだし、
俺が口出しする筋合いないけどさ、」
ぐ、と下唇を噛んで
また翔さんを見つめた。
「浮気、したら、許さないから…」
と。
「しないよ、安心して。」
「…ほんと?」
心配なんだよ…。
わかっていても、やっぱり…。
「あぁ、和也を悲しませないから。」
「…うん。」
───────────
そうやって、言ってたくせに。
「翔さんの、嘘つき…。」
「ごめんって、な?」
「俺だけ残して、
都会の学校いっちゃうなんて…ひどい。」
「また帰ってくるよ、そのうち。」
俺の頭を優しく撫でる翔さん。
それが気持ちよくて、
少し和らいだけど。
これが、この電車が、動いたら。
もう、ばいばいなんだ。
「う…」
「和な…」
溢れ出してしまった感情は、
止まらない。
「や、だぁ、おれ、も、行くっ…」
「だめだって、無理だよ…
ほら、泣かない。また帰ってくるから。」
「うそ、つきっ、ばかっ、ばかぁっ…」
ねぇ、翔さん…
また、なんて言わないで。
どこにも行かないでよ。
「…あ、」
突然ふいに、鳴り響くベルの音。
電車の扉が閉まってしまう。
「しょ、さっ…」
やだ、やだ、やだ。
離れたくない。
『和也っ』
そんな声が、聞こえた気がして。
涙で滲む景色に、
翔さんの泣き笑いの顔。
すきだ
翔さんの口が、そう動いてから。
電車は、遠く遠く、離れていった。