方位磁石の指す方向。
第15章 scene 14
いつまでも、
立ち尽くしていた。
もう帰ってこないと、
わかっているのに。
軽快な音が、ポケットで鳴った。
『いってきます。』
翔さんからの、メッセージ。
余計に、涙が溢れる。
駅のイスに座って、
止まらない涙をどうにか止めようとしていた。
それでも、思い出すのは
楽しい記憶ばかりで。
そんな記憶を思い出す度、
胸が苦しくなって余計に景色は溶けていく。
「うっ、うぇっ…」
ねぇ、翔さん…。
今度、って、いつかな。
いつ、会えるのかな。
もう一生会えない気がして、
涙が止まらなかった。
『いってらっしゃい。』
震える指で、
どうにか打ったメッセージ。
「…ニノ、帰ろうか。」
「さと、し…」
『翔ちゃんとちゃんと
ばいばいするんだぞ。』
と、智は言ったまま
どこかにいってたのに。
智にも、涙の跡がある。
きっと、翔さんに泣いてるところを
見られたくなかったんだろうな。
「やだっ、まだ、帰りたくない…」
「翔ちゃんは、
まだ帰ってこないんだよ?」
知ってる。知ってるけど。
涙が止まらなくて、
ついでに鼻水も止まらない。
こんなぐちゃぐちゃの顔で、
外に出れるわけない。
「っ、ふ、うええ、」
智に腕を引かれて、
駅を出た。
いつまでも涙は止まらない。
『愛してる。』
そんなメッセージに気付くのは、
まだまだ先。