方位磁石の指す方向。
第15章 scene 14
「泊まってかねえの?」
「ん、許可取ってないから」
「ふーん」
いつもより早めの風呂。
ぱしゃぱしゃと湯船で遊んでいると、
シャワー浴びている翔さんが
「ガキかよ」
と呆れた顔をしていた。
「ガキじゃないよ?」
「仕草がって話」
きゅ、とカランを閉めた。
音が心地よくてふっと頬を緩めた。
「え、ちょ、狭いって」
「いーじゃんいーじゃん」
男ふたりで狭い風呂に入る。
ざーっと水が逃げていくのを見て、
また、綻んでしまう。
「…ん?」
翔さんの背中にぎゅっと抱きついて、
唇を寄せた。
「ちょ、擽ってぇ」
「んふふー」
「もー、なんだよ」
「なんでもないよ」
ただ、帰りたくないなって思っただけ。
この時間がずっと、続いたらな。
今日俺が帰ったら、
また次いつ会えるかなんて分からない。
だから、今は存分に甘えておこう。
「んーふふ」
「ふ、ほんとお前犬みてえだな」
頬を両手で包まれて、
ぐりぐりされた。
ただひたすら、愛が欲しくて。
「…んー」
「ん?」
「帰りたくないなぁ…」
揺らがないって決めたのに。