方位磁石の指す方向。
第16章 scene 15
「意外と荷物少ないんだね」
「うん、最低限のものだけ」
「そっか。
まあ、適当に寛いでよ」
「うん」
ベッドの上に放り出された洗濯物。
見兼ねて、その洗濯物に手をかけた。
「畳んどくよ〜」
「おー、さんきゅ」
あ、この白いポロシャツ、
俺があげたやつだ。
着てくれてるんだ。…ふふ。
あ、このワイシャツシワだらけだ。
これはアイロンかけなきゃな。
あ、あとスラックスも…。
「…くふふ」
新婚さんみたい。
なんて考えて、
ひとり、頬を緩ませていた。
「なーに笑ってんの?」
翔さんもそんな俺を見兼ねてか、
後ろから顔を覗き込んできた。
「わぁっ、」
「わ、そんなびっくりすんなよ。
ほら、コーヒー淹れたよ」
「あ、ありがとう…」
あれ、このマグカップ…
「あ、あとそのマグカップ、
和也のだから」
「…くふ、やっぱり?」
「やっぱりって?」
「裏のシール、剥がされてないから」
触れたシールに、
俺の指が早く反応したんだ。
「あー、ごめん、忘れてた」
「くふふ、いいよ。だって…」
“俺のために買ってくれたんだもんね?”
翔さんに向かって微笑みかけて、
そう口にすれば。
照れたように目を逸らされて、
頭を優しく叩かれた。
…くふふ。