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方位磁石の指す方向。

第16章 scene 15



「あれ、翔さんの家って、
アイロン置いてないんだ?」

「あー…」

「ん?」


ちょっと待ってて、と
廊下に出てしまった翔さん。

玄関手前の扉を開いて、
そこから取り出したのは。


「アイロン台じゃん」

「前の人が置いてったみたいでさぁ」

「洗濯機すごい古いもんね。
あれも前の人?」

「いや、あれは前の人でもないらしい」

「ふうん、洗濯機も
買い換えた方がいいかもね」


だってこれから、
ふたりの家になるんだもん。

前の人の痕跡なんて、
これっぽっちも残したくないんだよ。


「んふふ」

「また笑ってんの?」

「うん」


にっこりと翔さんが微笑み、
優しく頬を撫でてくれる。

その度にふわりと香る翔さん匂い。


「…柔軟剤、変えた?」

「ん?あー、洗剤?」

「うん、前と違う」

「安かったから違うのにした」

「ふうん。
でも前よりこっちの匂いのが好きー」

「ふ、ありがとう」

「いーえ?」


これから、俺だって
翔さんと同じ匂いになるんだから。

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