方位磁石の指す方向。
第3章 scene 3
…来ねえし。
期待してた俺が、バカみたい。
翔さんまだかな、とか
乙女みたいに待ってた。
だってもう…七時前。
おじさんもおばさんも、
まだ帰ってきてない。
おじさんはたぶん残業で、
おばさんは買い物かな。
毎週、七時前になっても帰ってこないときは
大体買い物してる。
大量に買ってくる。
「重いわ~。
運ぶの手伝って。」
とか、言う。
別に、
手伝いは嫌いじゃないし
褒められるのも嫌ではない。
頼りにされるのも、嫌じゃない。
「じゃね、和くん。」
「あ、うん。またね。」
「ふふ、翔ちゃん来るって。
あ。マジだよ?ガセネタとかじゃないからね?」
相葉さんはくふふって笑って、
智と一階に降りてった。
さっき冷めた熱が、一気にぼわんって上がる。
うわぁ…翔さん来るんだぁ、って。
「和ーっ、翔ちゃん来たよー?」
…はぁ?
来るの急すぎじゃね?
なんて思いながらも、
頬は緩みっぱなし。
「…あ、二宮…。」
「…なにか。」
ぶっきらぼうになる。
ほんと、俺って可愛くないヤツ。
「ほんと、ごめんな。」
って、俺の頭をぽんって
優しく撫でるから。
ぽろって、涙が出た。
「…うん。…許す。」
俺が満面の笑みでそう答えたら、
翔さんが前みたいに優しく笑う。
「あー、よかった。
許さないとか言われると思ったからさ?
てか、お前泣くなよ。
いっつも泣いてばっかだな。お前。」
「うるさい。」
翔さんに抱きつく。
「……好きだよ。バカ。
好きになっちゃったんだから、
責任とってよね。」
顔は見れなかったけど、
その分、腕に力を込めた。
ふうって安心したように息を吐く翔さん。
「…俺も、好きだよ。」
耳元で囁かれて、
体の体温が一気に上昇した。