方位磁石の指す方向。
第4章 scene 4
俺の初恋は、
小学5年生。
随分遅かった。
だけど、あの人しか、
俺は心から愛せなかったんだ。
「和也、遅いよ
あー、もう!
ここ、泥ついてるじゃん。」
1つ歳上…つまり、
小学6年生。
身長差はあまりなかった。
あの人が小さかったから。
…名前はなんだっけな…
でも、とても優しかった。
所詮は恋だ。
恋なんて、一時のもので。
いつか終わりが来る。
そんなことは知っていた。
俺の母さんは、
そういう人だったから。
2日3日で交代してて、
知らない人が
出入りしていた。
「…和、この人は悪い人じゃ
ないからね。
お部屋でお勉強してなさい。」
「…勉強は終わったけど…」
「いいから!!」
母さんが怒鳴った。
俺が何も言わなくなると、
はっと我に返ったようで、
「ごめんね。和也。
いい子にしてて。」
って言って、2人で
いつも俺と母さん、父さんと
寝る部屋…つまり、
寝室に向かった。
なにしてるのかな…なんて
思ってた。
でも怒られるのは嫌だから
"いい子"を演じていた。
だから、
あの人も、
「和也は偉いね。
ちゃんと勉強して、
いい点数とって…
すごいよ。
私もそうなりたいなぁ…」
なんて、いつもいつも
言っていた。
…あぁ、名前、思い出した。
確か、千晴(ちはる)とか
言ったかな。
みんなからちぃちゃんって
呼ばれてた。
「…千晴だって、
すごいじゃん。
この前、絵の賞状貰ってたじゃん。」
「げっ、知ってたの?」
「うん。」
こうやって、
二人で話すのが
楽しかったんだ。