方位磁石の指す方向。
第4章 scene 4
今なら、母さんは
なにしてたかなんてわかる。
…そして、母さんと父さんが
死んだのは、事故なんかじゃ
ないってこと。
「千晴はさ、なんで俺ばっかり
構うんだよ。
他にもいるじゃん。」
「えー、だめなの?
和也はさ、弟みたいだから
守りたくなるんだよねぇ…」
"弟"
その響きに、胸がつきん…と
痛くなった。
気がした。
「へ、へぇ。そう。
俺弟?」
「うん。
てか、和也の方が
歳上みたいだけどね。」
「それは、千晴がバカだから…」
「言ったな?」
「あっ…」
慌てて口を押さえたけど
もう遅かった。
「私だってな、頑張ってんの!
和也にはわかんないだろーけどっ!」
「ちょ、千晴っ、やめっ、
くすぐったい!!」
「うりゃうりゃ!」
…あぁ、二人での時間を
もっと俺が大切に
してやれてたら……
傷付けずに済んだのに。
「和也、天気いいから
遊んできなさい。
お母さんね、大切な用事が
あるの。」
「……うん。
千晴んち行ってくる」
「あぁ、千晴ちゃんね。
仲いいわね。いってらっしゃい」
そうやって、
笑顔で送り出してくれた
母さん。
あれは…ただの仮面だったんだ。
優しくて、大好きな母さんじゃ
なかったんだ。
母さんはいつしか、
"母さん"じゃなくなってた。