方位磁石の指す方向。
第5章 scene 5
画面越しなら、
想いを伝えることは簡単だ。
でも…
「二宮?」
こうやって、
間近で見られてると…
どうしても、
素直になれずにいる。
「っあ、ごめん。
なんだっけ?」
「どうした?
具合悪いのか?」
「いや、そんなことないんだけど。
ただ、ボーッとしちゃった。
ほら、最近、疲れてるから…」
「あー、文化祭始まるしな。
みんな気合い入ってるよな。」
「そうだよね…
俺、くったくた。」
「はは、そっか。
頑張ってんだな。」
眩しすぎる笑顔を
向けられて、
一瞬心臓が止まった気がした。
…あんなの。
反則、でしょ……
「……もうっ、バカ…」
たぶん、今、顔真っ赤だ。
「可愛い…もう、」
顔がぐっと近付けられたから
キスされるんだなって
思って、瞳を閉じた。
…よく考えたら、
ここ、学校じゃない?
「ま、まっ、…んっ…」
ちゅっと、短いリップ音。
何回も何回も、
頭の中で繰り返されてる。
「…和也、」
頬に手を添えられて、
また、キスされる。
まさか、ね。
誰も見てないよね。