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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼



「…和也…戻れ…戻れよ…」

「………苦、しい…翔様…」


小さく出された声
肩を掴み、バッと自分の身体から引き剥がした


「大丈夫か!?」

「…はい」

「本当に…平気か?」

「…はい」


さっきとは違ってしっかり俺に視線を向けてるし
顔色も、脱け殻みたいな放心状態もなくなってるけど
それでも心配で、和也の顔や腕をしきりに触った


「…平気です」

「本当に?」

「本当です…」


和也が僅かに笑顔を見せる


「……はぁーもう…心配するだろ…」


今度は優しく抱き寄せ、肩に顔を埋めた

和也の存在を感じる…良かった
本当に、俺の前から居なくなってしまう気がしたんだ
心臓が…止まるかと…


「申し訳…ありま…っ」


言い切る前に和也の声が震えて
同時に身体も揺れだして…泣き出してしまったことが分かった

本当にどうしたんだ…そう思ったけど

声を殺し、泣く和也の小さな手が
俺の背広をいっぱいに掴み、離さないよう力を込めるから…
それが哀しみを語ってたから…
理由なんてもう、どうでも良かった





「…すいません…翔様」

「気にすんな…落ち着いたか?」

「…はい」


抱き締めていた状態から身体をゆっくり離していく

和也の真っ赤になった目に優しく微笑んで
頬の筋を指で拭っていった

 
「…翔様…」

「ん?」

「翔様の前では…僕は…」


言葉を詰まらせて、それっきり口を結んでしまった

やっぱり…何かがあったことは明白
でもいい…


「何も言わなくていい…」


和也が泣いてしまったことだから
恐らく…辛いことを言わせてしまう結果になるんだろう

もう十分哀しみを背負ってる子だから
これ以上苦しめるような、追い込むようなことはしない


「ピアノ…どう?」


涙痕を拭き終えた手を頭に置いてそっと撫でた


「使い古しでごめんな
小さい頃、あれが大好きでさ…」


澄んだ和也の瞳が、俺の瞳から離れない
気付いた時には唇を重ねていた


「あ、ごめん…
お気に入りの…あのピアノを、和也に弾いてほしくて…
あれはどこにあんのかな…」


1ヵ月ぶりだった和也とのキスにときめいる自分を誤魔化したくて
立ち上がり、おもちゃのピアノを探した

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