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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼



動かない和也に構わず歩き回って褥部屋を開けてみると
端に、楽譜と一緒にそれが置いてあった


「やっぱ懐かしいなー…」


バイエルの中見るのなんて…何年ぶり

ピアノの近くに座り、楽譜をペラペラ捲っていく
和也はどの曲をやっていたんだろう…


「か…」


尋ねようとして思い止まった

開いていったページ
なぜか自然に開いてしまう所があって
もしやこれかと思い、喰い付いて見てみれば

音符や歌詞は滲み…紙はよれて…
何かで濡れ、そうなってしまったことは瞬時に理解できた

…この曲だな


「ちょっと弾いてみるかなー…」


ちらっと居間に残る和也を見た

そこにいて何をしてるのかと思ったら
俺が放り投げてしまった楽譜をペラペラ捲り、興味ありげに目を通している


「それ、こっちのよりちょっとレベル高いんだ
これが終わったら弾いてみるといいよ」


にっこり笑い掛けてから
右手を鍵盤にふわっと置いた

楽譜を確認しながら指を弾いていく


「さーくらーさーくらー…」


1番を歌いつつ弾き終わると
2番は左手も加え、自分なりにアレンジをし演奏した


「おいで、和也」


こっちを見ていた和也に呼び掛け
バイエルの本を閉じた


「今の、俺の苗字入ってんだ…
和也にも弾いてほしいな」


寄ってきた和也の腕を掴み、胡坐の上に座らせると
バイエルを開こうとする手を止め
代わりに、鍵盤を押す俺の手を見せた


「さーくー…ほら、左のドレミの方で一緒にやってみ?」

「さー…くーらー…」


か細い声で歌いながら俺の手についてくる

何回か弾いていけば、綺麗な指はあっという間に記憶し
俺の手本なんか不要になってしまう


「…みにゆーかん…」

「さすが」

「でも…片手ですし」

「ゆっくりでいいんだよ
この前みたいにあっさり両手弾きされたら
なんも教えらんないし、俺」


これしか繋がりがないわけじゃないけど
これも大切な繋がりだから…早々に終わらせたくない

心と身体とピアノと…

ゆっくりでいいから…もっと、もっと
増やしていきたい


和也と俺との繋がり


もう和也が泣かなくてもいいように…

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