びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】
第1章 かりそめの遊艶楼
「櫻井様ぁ〜」
「松本様ぁ〜」
皆が皆格子から手を伸ばし
自分を買ってくれと言わんばかりに自らをアピールしている
二人の客人が雅紀さんの後に続き
品定めをするようにこちらに向かってゆっくりと歩みを進めていた
「なにこれ…」
「な? すげぇーだろ?
好きな子選べよ。俺はもう決まってるから」
客を取らなければ借金も返せない
そんなの百も承知だった
だけど、どうしても媚を売ることができずにいた
唯ひたすらに真っ直ぐ前を見据えて
誂えたばかりの山吹色の振袖をギュッと握る
「へぇ…翔くん、お気に入りがいるんだ?
どの子?」
「ここには居ないよ
太夫だからね、部屋持ちなんだ」
「見世に出ている魅陰は20名程、
部屋持ちの魅陰太夫は3名程在席しております。」
コツコツと足音が近付く度
掌に嫌な汗をかく
思わず顔を斜に構えると
その足音が目の前でピタリと止んだ
「お前、客に顔も見せないのか」
「申し訳御座いません、櫻井様!
この者は今日が水揚げでして…
和也!顔を此方に向けてきちんとご挨拶しなさい!」
「水揚げ?」
「初見世のことで御座います」
「未だ客を取ったことがない、って事か…?」
「はい。
不慣れなもので大変失礼を…」
「じゃあ、コイツ。
今日はコイツを買う」
櫻井様が僕の方を見てニヤリと笑った
その薄い笑みにゾッとする
雅紀さんに口を酸っぱくして言われていた事を思い出した
“少しは愛想良くしないと
辛い思いをするのは和也なんだぞ…?”
きっと櫻井様は僕を買って
見世並びで顔を背けていた事を引き合いに
酷く抱くおつもりなのだろう
魅陰の僕に指名を拒否する権利は無い
離れた所で部屋子の慧が心配そうに此方を伺っている姿が目に入った
「……有難う御座います、」
雅紀さんが引き攣った笑顔で櫻井様に頭を垂れると
「和也、ご指名だ
慧、櫻井様を蜩(ひぐらし)の間にご案内して。
松本様は…」
「藍姫で。
いいだろ、潤」
「藍姫?」
「俺のお気に入りだ
今日は潤に譲ってやるよ」
櫻井様は慧と共に奥座敷へ
松本様は雅紀さんと共に最上階の藍姫様のお部屋へと向かった
「こりゃ、痛い目に遭うだろうねぇ
ククッ…水揚げ早々ご愁傷様」
先輩の魅陰達が振袖口で口元を隠して
意地悪く笑った
「松本様ぁ〜」
皆が皆格子から手を伸ばし
自分を買ってくれと言わんばかりに自らをアピールしている
二人の客人が雅紀さんの後に続き
品定めをするようにこちらに向かってゆっくりと歩みを進めていた
「なにこれ…」
「な? すげぇーだろ?
好きな子選べよ。俺はもう決まってるから」
客を取らなければ借金も返せない
そんなの百も承知だった
だけど、どうしても媚を売ることができずにいた
唯ひたすらに真っ直ぐ前を見据えて
誂えたばかりの山吹色の振袖をギュッと握る
「へぇ…翔くん、お気に入りがいるんだ?
どの子?」
「ここには居ないよ
太夫だからね、部屋持ちなんだ」
「見世に出ている魅陰は20名程、
部屋持ちの魅陰太夫は3名程在席しております。」
コツコツと足音が近付く度
掌に嫌な汗をかく
思わず顔を斜に構えると
その足音が目の前でピタリと止んだ
「お前、客に顔も見せないのか」
「申し訳御座いません、櫻井様!
この者は今日が水揚げでして…
和也!顔を此方に向けてきちんとご挨拶しなさい!」
「水揚げ?」
「初見世のことで御座います」
「未だ客を取ったことがない、って事か…?」
「はい。
不慣れなもので大変失礼を…」
「じゃあ、コイツ。
今日はコイツを買う」
櫻井様が僕の方を見てニヤリと笑った
その薄い笑みにゾッとする
雅紀さんに口を酸っぱくして言われていた事を思い出した
“少しは愛想良くしないと
辛い思いをするのは和也なんだぞ…?”
きっと櫻井様は僕を買って
見世並びで顔を背けていた事を引き合いに
酷く抱くおつもりなのだろう
魅陰の僕に指名を拒否する権利は無い
離れた所で部屋子の慧が心配そうに此方を伺っている姿が目に入った
「……有難う御座います、」
雅紀さんが引き攣った笑顔で櫻井様に頭を垂れると
「和也、ご指名だ
慧、櫻井様を蜩(ひぐらし)の間にご案内して。
松本様は…」
「藍姫で。
いいだろ、潤」
「藍姫?」
「俺のお気に入りだ
今日は潤に譲ってやるよ」
櫻井様は慧と共に奥座敷へ
松本様は雅紀さんと共に最上階の藍姫様のお部屋へと向かった
「こりゃ、痛い目に遭うだろうねぇ
ククッ…水揚げ早々ご愁傷様」
先輩の魅陰達が振袖口で口元を隠して
意地悪く笑った