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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼

内通路から蜩の間へと向かう


腹を括ろう
全ては戯れ…かりそめだ

現実であって、現実ではない
そう思い込まずには
とてもではないが、見知らぬ人間、しかも男に身体を捧げることなど出来なかった




「櫻井様。失礼致します。
和也に御座います」

「おぉ。来たね、新人さん」

「先程は不慣れな故、大変御無礼を致しました
今宵はごゆるりとお楽しみくださいませ」



意を決して顔を上げると
櫻井様と視線がぶつかった。




「……っ!」

「櫻井様…?」


初めてきちんとそのお顔を見た。

つぶらな瞳
ぷっくりとした紅い唇
言葉は酷く鋭いのに
お顔立ちは優しく
そして何より先程までの威圧感は感じない。


「…取り敢えず、中…入る?」


なんだか挙動不審で
可笑しくなって思わず

「はい」

と笑顔を返した



「和也は…本当に俺が最初の客なのか?」

「はい、そうで御座います」

「そうか…」



櫻井様の目の色が男のそれに変わる。

やはり、怖い。
ギュッと目を瞑り
押し寄せる恐怖感をやり過ごそうとした





「和也…!」


ここはまだ居間だと言うのに
あっという間に櫻井様は僕を組み伏せた


「お待ちください、櫻井様!
せめて、お布団のお部屋にっ…!」


ハッとして
櫻井様が勢い良く身体を離す


「…ごめん。行こうか…」


スッと立ち上がり一人でズンズンと奥の褥部屋(しとねべや)に入っていく。
乱れた襟元を正し、深呼吸を一つして
その背を追った





「和也…」

櫻井様のその目は
欲情の色を隠さない。


怖い

怖い

雅紀さん…助けて…


「はぁっ…はっ…」


帯を解きながら首元に吸い付かれると
たまらずギュッと身体に力を込めた



「…おい」

「えっ…?」


薄く目を開けると
櫻井様が唇に指を当てる



「血が出てる… 唇、噛んでたのか」

「あっ…」


「怖いか」

「いえ、そんな…」



「俺のことが怖いか、和也」

「……」


“誤解です”
そう言いたくても言えなかった


怖くなかったと言えば嘘になる
でも
櫻井様を怖いと思ったわけではないのだと思う



「ごめっ……ごめんなさい………」



あぁ、きっと酷くされる。

この先の仕打ちを想像すれば
涙がポロリ、と零れ落ちた

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