秘密の兄妹 2
第3章 純哉と奏多
「風磨、おはよう!」
「あぁ、おはよう。」
靴箱で上履きに履き替えている俺に、大地がいつもより明るい口調で声を掛けてくる。
「大地、朝から意味も無くヘラヘラするのやめろ。
馬鹿みたいに見えるぞ。」
俺が溜め息をついて大地に注意すると「意味ならあるぞ」と、大地が顎で昇降口の入口を指す。
俺が振り返ると、悠人と紫織ちゃんがこちらに向かって、2人で並んで歩いている姿が俺の目に映る。
悠人よりも先に俺と大地に気づいた紫織ちゃんが、笑顔で俺たちに頭を下げてくる。
「…紫織ちゃん、元気そうじゃね?」
大地は安堵の表情を浮かべて口元を緩ませる。
「…あぁ、今日の紫織ちゃんはいつもの紫織ちゃんだな……。」
悠人は紫織ちゃんを連れて俺たちの前まで来ると、俺たちに朝の挨拶をする紫織ちゃんを横目で見ながら、少し気まずそうに口を開く。
「お前らにもいろいろ迷惑かけたけど、紫織、多分もう心配ないと思う。
昨日、心療内科の先生に話聞いてもらって、紫織もいろいろと気持ちの整理ができたみたいで、病院から家に帰るといつも通りの紫織に戻ってた。」
悠人がそう言い終えると、紫織ちゃんが深々と俺たちに頭を下げる。
「橘さん、神保さん。お2人には多大なご迷惑と心配をお掛けしました。
申し訳ありませんでした。」
「いや、紫織ちゃんが元気になったならそれで良いよ。安心した。」
「だよな!今が元気ならそれで良し!
結果オーライだよ!!」
俺と大地の返事を聞くと、紫織ちゃんは微笑んで「ありがとうございます」と答える。
「お兄ちゃん、由香ももう登校してると思うから教室に行くね。
由香にもたくさん心配かけたから早く安心させてあげたい。
じゃあ、橘さん、神保さん、お昼にまた!」
紫織ちゃんはそう言って軽く手を振ると、足早に1年の靴箱に向かっていった。