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レット・ミー・ダウン【ARS・NL】

第4章 モーニングセット【翔】

次の日の朝、帰省の疲れは残っているものの、私は店に出た。

夫もヒロトも平常通り会社や学校に行くのに、私だけ休んではいられない。

「お父さん、おはよう。長い間、ごめんね。」

「ああ、もういいのかい? 」

私は、普段通りエプロンと三角巾を身につけ、看板を『OPEN』にし、棚から取り出したジャズのレコードをかけた。

常連客が次々と来店し、お冷を出してオーダーを取り、注文の品を出した。

注文が一段落した時、ドアのガラスから中をうかがう男を見つけた。

深くかぶった帽子に黒縁のセルフレームの眼鏡。

男はガラス越しに店内を確認すると、ドアを開けて入ってきた。

「いらっしゃいませ。おはようございます。」

私は、いつものように挨拶をした。

本当は、二度と会えないかもしれないと覚悟していた彼の来店に、声が震えそうだった。

彼は、少し眉を動かしたがすぐに平静な顔に戻り、私に小さな会釈をするといつもの席に着いた。

「Bセット、アイスで。」

いつも通りの注文を告げると、彼は新聞を広げた。

父にアイスコーヒーのオーダーを通すと、私は厚手の鉄製フライパンを火にかけた。

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