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レット・ミー・ダウン【ARS・NL】

第9章 コッペパン【和也】

二宮「知らねーよ! こいつが勝手にからんできて、勝手に泣いたんだよ!」

二宮さんは、サキの手を振りほどいて店を出て行った。

サキ「もう、これだから魔法使いは! ◯◯、大丈夫?」

◯「かも知れない…。」

サキ「ん?」

◯「二宮さん、本当に魔法使いかもしれない…。」

サキ「マジ!?」




*****




それからというもの、私は昼休みになると決まって行くところがあった。

電気の消えた、薄暗い経理室。

その片隅でひとり背中を丸めてコッペパンをかじる彼の隣。

私もお弁当を広げて食べる。

二宮「毎日毎日、来んなよ。」

◯「………。」

二宮「ゲームに集中できないじゃんか。」

◯「………。」

二宮「ちっ、勝手にしろ…。」

二宮さんは、暗くて、ゲームオタクで。

そして、やはり魔法使いだった。

二宮「うっし、ダンジョンクリア。」

小さくガッツポーズをした猫背の彼は、見事に私の心を虜にする魔法をかけた。

もう一度、あの魔法使いの顔が見たくて。

◯「あの、会社では出さないんですか?」

二宮「出す? 何をさ?」

◯「色気…。」

二宮さんが、飲みかけのコーヒー牛乳を吹き出した。

二宮「出すわけねーだろ! 仕事しに来てんだぜ?」

二宮さんは、頭を抱えた。

◯「あの、今夜食事に行きませんか?」

二宮「行かない。それとも、あんたのおごり?」

ひょっとしてもう二度とあの顔は見られないのかも知れないけど。

◯「おごり、でいいです。」

二宮「じゃ決定。」

◯「その後は、ディスコに…。」

二宮「却下。」

期待してしまう。



午後の始業のチャイムが鳴った。


【コッペパン・和也】

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