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異彩ノ雫

第35章  intermezzo 光と影 ~アトリエのある風景




古いアパルトマンの屋根裏部屋

絵の具の匂いの中
斜めに切り取られた空間に
ただひとつの窓から西陽が差し込み
君の髪を輝かせた

ベッドとスツール
そしてイーゼルには描きかけの君の肖像
それだけの部屋
ただそれだけ…
君さえいれば
他には何もいらなかった

珈琲を淹れる君
優しく僕に呼び掛ける君

朝を迎えるたび 君に恋をした……

夜更けの雨が激しく屋根を叩く時には
僕の胸に顔を埋め
静かに涙をこぼす君
強く 強く 抱きしめながら
このままふたり
世界の果てへ流れてしまおう
そんな夢もみた…

けれど
あの日
突然君はいなくなった…

ひとり
雑踏にぶつかりながら
街を彷徨いつづけ
たどり着いた酒場の隅
君を想い無性にあふれる涙に溺れている

還ることのない日々
恋も夢も
すべては消え去る 遥か時の彼方へと

ただ
あの肖像だけは
ふたり暮らした部屋に残り続ける
描きかけのままで…






(了)


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