
異彩ノ雫
第50章 intermezzo 隠れ鬼
その山には
禁忌の言い伝えがある
決して足を踏み入れてはならない
魔が待ち受け二度と戻れぬ、と…
冬の訪れも間近な朝
彼は
住まう洞窟の入り口近くに眠る
ひとりの少女を見つけ当惑していた
── 俺としたことが
何の気配も気付かぬとは…
薄紅の陽が山肌を染め
少女の金色の髪を輝かせる
やがて
見つめる彼の前で瞼がゆっくりと開かれた
── あなたは誰?
── 俺はこの洞窟の番人にして
山を支配するものの代理人
今なら何も知らぬことにできる
帰るがいい
彼は背を向け少女に告げる
けれど
いつまでたっても返る言葉は聞かれず
そっと振り向く彼が目にしたものは
蹲り 再び眠りにおちた少女の背中…
── 人間とは愚かなものだ
してはならぬことばかりをやりたがる
少女を背負い洞窟の中に寝かせると
彼は深々とため息をついた
年の頃は十ばかりだろうか
高い鼻梁 紅い唇
目を開いた折に絡んだ視線の
碧い瞳が心に残る
── どうしたものか…
眠り続ける少女の前に
彼は静かに膝をつく
(つづく)
