
異彩ノ雫
第50章 intermezzo 隠れ鬼
眠る少女は夢をみる
暖かなブランケットにくるまれ
山あいから昇る朝日を見つめている
その傍らには 誰か、誰かがいる
優しいぬくもりを感じさせる誰かが…
── 目が覚めたか
まったく世話のやけることだ
少女は
大きな犬の懐に抱かれていた
── あなたは誰?
── 俺はこの洞窟の番人
ケルベロスの系譜に連なるもの
すべてのものは俺を恐れ…
── ひとりなの?
ふいの問いかけに彼はたじろぎ口ごもる
── 私はマリールゥ
助けてくれてありがとう!
少女は微笑み彼を見つめる
柔らかな陽射しに包まれたような心地よさ
それは
唯ひとり 山に暮らす彼の心を
さざ波のように満たしてゆく
── ……俺はジャコモ
さあ、もう山を下りるんだ
瑠璃色の鳥を追いここまで来た、と
楽しげに喋る少女を急かしながら
彼の胸は何故だかチクリと痛む
── いいえ、私はここにいるわ
あなたのこと好きになったから!
少女は彼の首に華奢な腕をまわし
抱きしめる
冬が
雪が近づいていた…
(つづく)
